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zoom RSS 子持ち蓮華

<<   作成日時 : 2012/06/09 12:49   >>

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十力の金剛石  宮沢賢治   抜粋


☆☆☆


「王子さま、お早うございます。」と申しました。王子が口早にききました。
「お前さっきからこに居たのかい。何してたの。」
 大臣の子が答えました。
「お日さまを見て居りました。お日さまは霧がかからないと、まぶしくて見られません。」
「うん。お日様は霧がかかると、銀の鏡のようだね。」
「はい、又、大きな蛋白石の盤のようでございます。」
「うん。そうだね。僕はあんな大きな蛋白石があるよ。けれどもあんなに光りはしないよ。僕はこんど、もっといいのをさがしに行くんだ。お前も一諸に行かないか。」
 大臣の子はすこしもじもじしました。
 王子は又すぐ大臣の子にたずねました。
「ね、おい。僕のもってるルビーの壺やなんかより、もっといい宝石は、どっちへ行ったらあるだろうね。」
 大臣の子が申しました。
「虹の脚もとにルビーの絵の具皿があるそうです。」
 王子が口早に云いました。
「おい、取りに行こうか。行こう。」
「今すぐでございますか。」
「うん。しかし、ルビーよりは金剛石の方がいいよ。僕黄色な金剛石のいいのを持ってるよ。そして今度はもっといいのを取って来るんだよ。ね、金剛石はどこにあるだろうね。」
 大臣の子が首をまげて少し考えてから申しました。
「金剛石は山の頂上にあるでしょう。」
 王子はうなずきました。


☆☆☆


にわかにあたりがあかるくなりました。
 今までポシャポシャやっていた雨が急に大粒になってざあざあと降って来たのです。
 はちすずめが水の中の青い魚のように、なめらかにぬれて光りながら、二人の頭の上をせわしく飛びめぐって、

  ザッ、ザ、ザ、ザザァザ、ザザァザ、ザザア、
  ふらばふれふれ、ひでりあめ、
  トパァス、サファイア、ダイヤモンド。

 と歌いました。するとあたりの調子が何だか急に変な工合になりました。雨があられに変ってパラパラパラパラやって来たのです。
 そして二人はまわりを森にかこまれたきれいな草の丘の頂上に立っていました。
 ところが二人は全くおどろいてしまいました。あられと思ったのはみんなダイアモンドやトパァスやサファイヤだったのです。おお、その雨がどんなにきらびやかなまぶしいものだったでしょう。
 雨の向うにはお日さまが、うすい緑色のくまを取って、まっ白に光っていましたが、そのこちらで宝石の雨はあらゆる小さな虹をあげました。金剛石がはげしくぶっつかり合っては青い燐光を起しました。


☆☆☆



 「ほろびのほのお湧きいでて
  つちとひととを つつめども
  こはやすらけきくににして
  ひかりのひとらみちみてり
  ひかりにみてるあめつちは
  ……………     。」

 急に声がどこか別の世界に行ったらしく聞えなくなってしまいました。そしていつか十力の金剛石は丘いっぱいに下って居りました。そのすべての花も葉も茎も今はみなめざめるばかり立派に変っていました。
青いそらからかすかなかすかな楽のひびき、光の波、かんばしく清いかおり、すきとおった風のほめことば丘いちめんにふりそそぎました。
 なぜならすずらんの葉は今はほんとうの柔かなうすびかりする緑色の草だったのです。
 うめばちそうはすなおなほんとうのはなびらをもっていたのです。
 そして十力の金剛石は野ばらの赤い実の中のいみじい細胞の一つ一つにみちわたりました。

 その十力の金剛石こそは露でした。
 ああ、そしてそして十力の金剛石は露ばかりではありませんでした。
 碧いそら、かがやく太陽丘をかけて行く風、花のそのかんばしいはなびらやしべ、
 草のしなやかなからだ、すべてこれをのせになう丘や野原、
 王子たちのびろうどの上着や涙にかがやく瞳、
 すべてすべて十力の金剛石でした。


☆☆☆



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